米国 牧場に出さなくても”草飼育牛”の基準案 狂牛病でも無傷の工場牛肉生産
米国農務省(USDA)販売局(AMS)は今年5月、”草で育てられた牛肉”(grass-fed beef)という自主的表示の最低要件を、動物の”生涯におけるエネルギー源の99%”以上が”草”または茎葉飼料で賄われることとする案を8月10日を期限とするパブリック・コメントに出した。
”草で育てられた牛肉”の表示基準は、大量の牛を狭い飼育場に閉じ込め、専ら穀物(主にコーン)を与え、抗生物質や成長ホルモンをふんだんに使う現在の”標準的”米国産牛肉の生産方法(フィードロット肥育)に対抗、”草だけ”で牛を育て、それが牛肉の食品としての安全性や健康上の価値(栄養価など)を高め、環境にも優しいと訴えてきた小規模養牛農家が要求してきたものだ。
消費者の健康志向と食品安全への懸念が高まるなか、米国では、”草で育てられた牛肉”の生産者が急増している。APによると、専門家は、このように育てられる牛の数は急増しており、2005年には10年前に比べて5000頭増え、4万5000頭になった、2006年は10万頭に倍増すると見ている。しかし、フィードロットで毎年生涯を終えるおよそ3000万頭に比べれば微々たる数にすぎない。
狂牛病の大騒動にもかかわらず、米国の牛肉生産構造はほとんど何も変っていない。狂牛病騒ぎは、その根源ー利潤のみ求める巨大企業の農場から食卓までの支配が生み出し・環境を破壊し・人々の健康を脅かし・自らの持続可能性さえ奪いつつある工業的食料システムーには何の手もつけることなく収束することになるだろう。その上、それから脱却しようとする僅かな動きさえ、この構造に取り込んでしまおうというのがAMSの提案だ。
同じくこの脱却を目指す自然・有機牛肉生産は既にこの構造に取り込まれている。それは急速に増えている。昨年は全牛肉販売額の伸びが3.3%であったのに対し、有機牛肉販売額は17.2%増加した(販売量では1%、販売額で2%を占めた)。しかし、有機生産では、飼料が有機生産物であり、抗生物質やホルモンさえを使わなければよい。放牧場に出すのは年にたった120日でよく、それさえ守らなくても有機認証がなされている。